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メキシコホテル
ペンション・アミーゴの旅人たち
大倉 直
写真◆稲垣徳文
定価:本体価格1650円+税
(税込価格1733円)
解説
旅行人の本
季刊『旅行人』
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購入方法


少年たちの導き

 くやしかった。くやしくて仕方がなかった。そのへんにあるものを片っぱしから殴りつけたい衝動をぐっと押さえながら、ぼくは古いサカテカスの町をとぼとぼと歩いた。
 金をとられたのだ。白昼ふたり組の若者にナイフを突きつけられて、ぼくはポケットにあった20ペソ札を彼らに渡した、ただそれだけのことだ。
 その日の朝、ぼくは明るいカフェでハンバーガーとコーラの食事をとったのだが、その代金が九ペソだった。つまり20ペソとはそんな簡単な食事を2回もすればなくなってしまうような金額である。それはわかる。そしてむこうはナイフを持っていたのだ。ぼくは賢明な行動をしたと思う。
 しかし何度そう思ってはみても、ぼくはやはりくやしくて仕方がなかった。あてもなく路地を歩きまわり、空腹を感じてもいないのになんとなく義務的に遅めの昼食を食べ、そしてまた歩く。
 本当にすべてのものを殴ってやりたいほどのくやしさを、ぼくはどうすることもできずに持てあました。

*     *     *

 ラテンアメリカをのんびり陸路でくだるというのが、ぼくの旅行の大まかな計画だった。メキシコから細長い中米を通り、そして広大な南米へ行こう。南米大陸の西側をくだり、南端のチリ、アルゼンチンまで着いたら、ぐるっと東側を北上して最後はブラジルだ。出発前、頭の中に地図を描きながら、そんなことを考えてはわくわくしていた。
 別にラテンアメリカを旅行する目的は何もなかった。行ってみたい、ぶらぶらと歩いてみたい、ただそれだけだったが、きっかけのようなものはあった。
 ぼくは22歳の1年間をアメリカで過ごした。基本的には英語の学校へ通っていたのだが、その最初の授業の日のことだ。ぼくのクラスには十数人の生徒がいた。その中にふたりのあまりにも美しい少女がいて、ぼくはびっくりしてしまったのだ。もちろん美女などテレビでも見ていればいくらでも出てくる。しかしぼくが驚いたのは、キャシィとロサという名の彼女たちがぼくのまったく知らない種類の美しさを持っていたからだ。訊ねてみるとキャシィは中米のホンジュラスから、ロサはメキシコからきたという。
 メキシコ以南の地域についてそれまでのぼくはなんの関心も、従ってなんの知識も持っていなかった。そこでは主にスペイン語やポルトガル語が話されているということさえ知らなかったし、ホンジュラスという国名に至ってはきいたこともない。キャシィたちのような独特の美女がごろごろいるラテンアメリカとは、どのようなところなのだろうとぼくは考えはじめた。
 半年後、1カ月だけアメリカの学校を休んで、ぼくはメキシコとホンジュラスを旅行した。暮らしていたオクラホマ州のノーマンという町をバスで出発し、一部飛行機も使いながら南へとくだっていったのである。
 その旅行の中で、キャシィやロサのような美女があたりにいくらでもいるわけでは決してないということを知り多少がっかりはした。だが、メキシコのタスコやサンミゲルデアジェンデという町の雰囲気はとても気に入ったし、カンクンやトゥルムで見たカリブ海は信じられないような色をしていた。ホンジュラスのロアタン島では独特の英語を話す人たちに驚き、またチョルテカという町では、その頃すでに帰国していたキャシィと再会した。旅の最後の数日間を彼女の実家に泊めてもらい、一家の厚いもてなしを受けたのである。
 ほとんど何も知らないこのラテンアメリカをもっと時間をかけて、そしてもっと南の方まで歩いてみたいと思うようになった。