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アジア雑語林(180) 2007年4月20日
国立国会図書館で遊ぶ(4) ポケット文春と「ある記」 文藝春秋は創立40周年記念事業として、1962年9月に新書版の「ポケット文春」をだ
した。当時の社名は文藝春秋新社だ。「ポケット」というのは、当時すでに発行されていた「ハヤカワ・ポケット・ブックス」や「新潮ポケット・ライブラ
リー」の流れに沿うもので、この時代は新書版サイズの本が流行していたのである。
このシリーズで、私が初めて読んだのは『エジプトないしょばなし』だ。1960年代後
半、神保町の古本屋のワゴンで見つけたのだと思う。そのあと、『太平洋ひとりぼっち』を買った。『世界無責任旅行』は、つい先日買った。ポケット文春のノ
ンフィクションでもっとも話題になったのは、この『太平洋ひとりぼっち』か『野生のエルザ』(ジェイ・アダムソン、1968)だろうか。
以上が例外的存在で、高峰、兼高、富永の三冊はすでに読んでいる。残りはあとは自費出版 かそれに近い旅行記か、あるいは団体の旅行報告書のたぐいで、わざわざ読む価値のない本だと思われる。とはいえ、『韓国青果業界駆けある記』(大沢常太 郎、東京都青果物商業組合、1969)なんかはおもしろそうだ。1960年代の韓国の野菜事情がわかる日本語資料がほかにどれだけあるかわからないが、 ちゃんとした報告書ならおもしろいはずだが、さあて、どうかなあ。いままで、期待をかなり裏切られているからなあ。
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アジア雑語林(179) 2007年4月12日
国立国会図書館遊び(3) 竹村健一の本で遊ぶ 戦後20年ほどの海外旅行事情に興味がある人は、それほど多くはないだろう。そのうち の、わずかな人は、もしかすると竹村健一の名が引っかかっているかもしれない。もうだいぶ前になるが、「旅行人」編集部が国会図書館の蔵書のなかから、お もしろそうな旅行書を探していて、若き竹村健一が書いた本を見つけたことがある。アフリカの本など、旅行の本を書いていた過去は私も少し知っていたが、次 のような本も書いていたとは知らなかった。書名から類推して海外旅行に関連ありそうな本のなかから、1960年代末までに出版された本を書き出してみる。 英会話など英語の本はあまりに多いので、省略する。
竹村は、1930年生まれ。1953年に大学を卒業し、毎日新聞社に入社するが、同年7
月に第1回のフルブライト留学生としてアメリカに渡った。アメリカ文化の研究が目的だったそうだ。翌54年9月にフランスに渡り、年末までヨーロッパ、イ
ンド、香港を旅して帰国。55年から英文毎日編集部に復職した。帰国してすぐ、海外旅行と英会話の本を量産する。
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アジア雑語林(178) 2007年4月5日
国立国会図書館遊び(2) ワールドフォトプレスのガイドブック 1970年代、海外旅行のガイドブックといえば、交通公社と実業之日本社が双璧だった。
単発か、数冊止まりのシリーズはいくつもの出版社から発売されているが、まとまった冊数が出ていたものといえば、ワールドフォトプレスの「ワールドトラベ
ルブック」だけだろう。双璧の2社と比べると、垢抜けないデザインだが、本によってはこの双璧よりも実用に徹しているから、こまごました情報が詰まってい
る。それが、今、貴重な資料となっている。たとえば、『タイの旅』には、バンコクのイラストマップがついていて、改訂版が出るたびにイラストも書き直され
ている。だから、1970年代末のシーロム通りやラチャパロップ通りにどんな店があったかが、よくわかるのである。
ちょっと解説を加えておくと、1972年と73年に出版された14冊は、発行がワールド
フォトプレスで、発売は三修社となっている。74年にガイドブックの出版はなかったのか、あるいは、たんに国会図書館に保管されていないだけかわからない
が、とにかく、74年は空白で、75年の『台湾の旅 改訂3版』以降は、発行・発売ともにワールドフォトプレスになる。
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アジア雑語林(177) 2007年3月29日
国立国会図書館遊び(1) JTBのガイドブック 国会図書館には、一度しか行ったことがない。
このガイドシリーズは、わずか160ページほどの薄いもので、1970年の『阿蘇・南九 州』から始まった「交通公社のポケットガイド」の外国編という位置だったと思われる。のちに外国編もポケットガイドに入り、途中「JTBのポケットガイ ド」とシリーズ名が変わり200点ほど出版されている。「ポケットガイド」シリーズ初期のアジア本は、次のようになる。
「ポケットガイド」と平行して、「ワールドガイド」という一風変わったガイドブックシリーズで、43冊出ている。
こういうリストを眺めてみれば、「一生に一度の海外旅行」という夢をかなえた上流階級の
人たちにとって、2度目は自分の好みに合った旅行をしたいという希望をかなえるガイドブックがこれだろう。「好みに合った」といっても、まだ個人旅行の時
代ではなく、スキーツアーといった団体旅行や、滞在型ツアーの自由時間に美術館巡りをするという旅だろう。 追記:1960年代のガイドブックに『アロハハワイ』(JTB 1963)を書き忘れたので、追加しておきます。
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アジア雑語林(176) 2007年3月20日
外国語学習の変遷 日本人の外国語学習史に興味があって、ときどき気になって調べてみたくなる。英語学習史
を研究している人は大勢いるだろうが、私が知りたいのは英語も含めた外国語の学習史だ。つまり、日本人はさまざまな外国語をいつから、どのように、どの程
度学習してきたのかということだ。1980年代でさえ、タイ語が学べる教室は全国でもそれほどなかったのである。タイ語だといかにもマイナーだと思うだろ
うが、イタリア語やポルトガル語だって、簡単に勉強できたわけではない。
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アジア雑語林(175) 2007年3月12日
マギー・シーゾニング・ソース 『世界の食文化 モンゴル』(小長谷有紀、農文協、2005)に、次のような文章がある。
食文化に興味があって、世界のあちこちを旅している人なら、この「マギー」の姿がすぐ思
い浮かぶだろう。茎が伸びたタマネギのような形のビンで、下部は四角い。黄色と赤のラベルに、"Maggi Seasoning
Sauce" と書いてある。日本の法律や食品業界の習慣で、この調味料を醤油の一種に含めているかどうかわからないが、味は「濃い口醤油に近い調味料」
だとは言える。だから、「醤油類似調味料」とも言える。この調味料と醤油の距離は、どこで味をみるかによる。日本なら、「なんだ、こんなもの」という気分
になるだろうが、インドやアフリカの田舎でしばらく暮らしたあとだと、その距離はぐっと縮まり、「ほとんど醤油だ」と喜ぶに違いない。
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アジア雑語林(174) 2007年3月5日
戦後史の闇の部分に、足をちょっと・・・・ あいかわらず、戦後史の本を読んでいる。『誰も「戦後」を覚えていない 昭和20年代後
半篇』(鴨下信一、文春新書、2006)に、「松本清張の他に、朝鮮戦争関連のことを作品に書いた人がほとんど見当たらない」とあって、「うん、なるほ
ど、そうか」と納得した。隣国の戦争は、文字通り「対岸の火事」だったらしいとわかる。同時代に生きていなかった者には、「他人事の戦争」という感覚がわ
からない。わからないから、本を読んで少しでもその感覚をつかみたいと思う。私の場合、過去の旅行や、アジア事情の本から資料を得る。最近読んだ2冊の本
から、意外な展開があったという話をしてみよう。
さて、富士車輌とは、なんだ。そんな会社を知らない。三宅がタイを旅したのは1965年
で、その当時の「水上市場」は、現在のダムヌーン・サドワックではなくトンブリの方だから、「橋梁」はチャオプラヤー川にかかる橋をさしている。1965
年のちょっと前にに完成している橋といえば、次の3橋。
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アジア雑語林(173) 2007年2月24日
タイにピラニア出現? 東南アジアの魚を紹介した文章に、突然「ピラニア」が登場することがあった。これは、どう考えたってテラピアの勘違いだと思っていたが、「あれれ」というのがきょうの話題だ。
しかし、本当にピラニアをバンコクの市場で売っているのだろうかという疑問が頭を離れず、再度調べてみた。すると、ピラニアに似た魚が見つかった。
説明にはこうある。「見た感じは、同じカラシン科のピラニアにそっくりだが、口は小さく、性質もおとなしい。貧栄養の水でも平気で、病気にも強く、養殖されることが多い。水産重要魚類である」
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アジア雑語林(172) 2007年2月15日
『バンコクの好奇心』の時代がやっと来た その2 "Very Thai"に、「トゥクトゥク」という項目がある。東南アジアの三輪自転車と三輪自動車を研究している者としては、ぜひとも精読しなくてはいけない。で、読んでみると、これはいけない。一部を要約して、前川の解説をつける。
→"SUZUKI" という看板は、ありえない。個人が勝手につけたかもしれないから、「皆無だ」と断定できないが、そうした説明なしに"SUZUKI"と書くべきではない。 また、原文でははっきりしないものの、"THAILAND"という表記になったのは21世紀に入ってからのような書き方をしているが、もっと古い。いつか らと、はっきりとはいえないが、1980年代からボツボツ変わり始めたと思う。
→1833年という数字が唐突で、理解不能。1872年に人力車がタイに渡ったという説はタイに残る記録だが、総合的に見て信憑性に欠ける。 Surakiart Sathirathai , cited by Rungrawee Pinyorat
, "Fog threatens view of Royal barges"(TN,22/07/2003) まさか、拙著を参考にしているとは思わなかった。だって、間違っているんだから。謎なのは、著者が多少なりとも日本語が読めるのか、それとも日本語が読める人に読んでもらったのか、あるいは読まずに書名だけ参考文献として書いておいたのか。そのあたりが、わからない。
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アジア雑語林(171) 2007年2月5日
『バンコクの好奇心』の時代がやっと来た その1
2006年秋にバンコクに行った。例によって、やることはいつもと同じ本屋巡りだ。もっとも期待していたのは、移転して新装成ったチュラロンコーン大学の
本屋だったが、これといってめぼしい本はなかった。タイに行けば必ずこの本屋に行き、学術書や論文集など他の本屋では手に入らない文書を手に入れるのだ
が、今回は一冊も買わずに店を出た。こんな不漁は、めったになかったことだ。ついでにガッカリ話をもうひとつ書いておけば、サイアムスクエアーのDKブッ
クスは、おもしろくなさそうなタイ語の本だけを集めたような本屋になりはて、さびれた印象を受けた。平日の昼下がりのせいかもしれないが、客の姿はなく、
閑散としていた。
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